お百姓さんとか

俺んちは、農家だった。関東地方の田舎の農家だったわけだ。まあ、俺が生まれた頃には、農業から次の産業へと移行しつつあったんだけれど。

なんつったって、農家だから、ケチだ。砂糖が高級品っつーくらいケチだ。歳暮や中元の頂き物は、まず、他所にタライ回しできるかどうか考える。消費してもいいことになっても、包装紙は保管しておく。包装用の紐も保管。新聞の折り込み広告だって、片面しか印刷してないモノは保管だ。俺、まさにチラシの裏にいっぱい落書きしたもん。ジュースとか甘いお菓子とか食ったことがない、高級品だから。とにかく、節約する。洋服とか学用品は、もちろん兄貴のお下がり。今時なら、エコでリサイクルな暮らしって感じだ。

特別、貧乏だったわけぢゃない。食うものは腹いっぱい食えたし。野菜とか、ほら、自家栽培だから、新鮮だしね。まあ、露地モノだから、夏中、ナスばっかりとかになってしまうわけだけど。

でね。

なんで、ケチなのか、っていうと、事業者だからなのね。

農家には、とりあえず、広大な土地が有るわけ。その土地をどうやって生活に結び付けていくか、っていうあたりが事業者なわけよ。先行きを考えず、ただ勤めてればなんとかなっちゃうサラリーマンぢゃないわけ。何にも考えず、毎年同じように同じことをしてりゃいいのか、っていうと、そうじゃないわけ。日照りの年もあれば、冷夏の年もあるし。時代の変化も先取りしていかないと、イケナイわけ。

そういう意味ぢゃ、農家ってのは保守的ぢゃなくて、ケッコー革新的なのね。アレがいいとか、噂を聞くと、とりあえず手を出してみたり、自分で何か開発したり、発明したりするのは大好きなのね。

好きって言えば、機械化も好きなのよ。トラクターだとか、モーターやら、原動機やら、色々持ってたりするのね。なんでも自分で作るから、それなりの装置が必要だし、皆ケッコー買うから、そういうメーカーだって大きくなれたんだし。

とりあえず、去年と同じコトしてればいいや、っていう感覚は無いのかもしれない。革新的な事業者なんだ。

事業者だから、支出を減らして、収入を増やすことを念頭に置くのね。不測の事態にも対処できるように、ある程度の体力も必要だし。当然、事業以外の部分では、ケチになっちゃうわけ。綺麗な服着てたからって、美味い野菜が出来るわけぢゃないから仕方ないんだけどさ。

なんかさ、田舎は、まったーりとのどかなイメージだけど、ま、そりゃ、お互いに助け合いとかもあるし、貨幣経済中心ぢゃないようにも、見えたりするけれど、実はさ、結構余裕が有るから、お互いに助け合いみたいな部分も有るわけだわさ。つまり、暮らすのに精一杯ってわけぢゃないのね。

農家っつか、お百姓さんをやるってのはさ、たぶん、IT企業を経営するのと、同じくらいの器量が必要なんぢゃねーのかなあ。ただ、漠然と仕事してたら、飢え死にしちゃうんぢゃねーかと思うんだ。

まあ、なんでも同じだろうけどさ。