ジャンプして落下する

ヤバそうな気配がする。そう思ったんだけど、つい飛び上がってしまった。

案の定、どこかの星の重力に捉えられ、ぐんぐん空へ向かって飛んでいく。というか、引っ張られてる感じ。星の引力は、地球の重力に打ち勝ち、俺の体をどこまでも吸い上げていく。

ヤバい、ヤバい。

手足をバタバタさせながら、なんとか星の引力から逃れようと試みるけれど、逃れられない。地面は遠ざかり、すでに雲が棚引くあたりまで到達している。このまま行くと、成層圏というか大気圏を離脱してしまう。

ヤバい、ヤバい。

星の引力は、ピンポイントで地上に降り注ぐ。ほんの少し外れれば、引っ張られることはない筈なんだが、何をどうしても上昇が止まらない。

ヤバい、ヤバい。

頭を抱えて唸ったとき、ハタと気づいた。そうだ、人間は頭部が一番重いんだ。頭が引力のビームから外れれば、上昇は止まる筈だ。俺は、思い切り顔を右に捻ってみた。

するとどうだろう。あれほど強かった星の引力は、その威力を失い、上昇はぴたりと止まった。すでに、バンアレン帯まで到達していた俺の体は、オーロラを横目に見ながら、ゆっくりと落下に転じた。

真っ暗だった空が、次第に明るさを取り戻し、空気の流れが徐々にスピードを増していく。地球での重力加速度は、毎秒 9.8m/s だ。足元からベイパーコーンが発生し、随伴渦に伴う大気中の水蒸気が白い傘を形成する。ドーンという衝撃波が発生し、あっというまに音速を超える。最高速は、だいたいマッハ 15 だ。

手足をバタバタさせると、体が分解してしまうので、きっちり気を付けの姿勢を保ったまま、落下地点を見極めようと、なんとか視線を下に向ける。

いや、待てよ。落下地点が何処であろうと、なんたってマッハ 15 のスピードだ。高さ 30m から落下すると、水面はコンクリート並みの硬さになる、とか言ってる場合ではない。隕石落下並みのエネルギーなのだ。日本にも、バリンジャークレータが出来てしまう。

ヤバい、ヤバい。

次第に地上が近づいてくる。視界は摩擦熱で陽炎のようになっていたが、かろうじて地上の建物は判別出来る。どこかの遊園地が見えた。

コレだ。

俺は、小指を立て、舵を取った。上手い具合に身体は右へ流れ、遊園地に向かっていく。もはや、火の玉と化した俺は、綺麗なサイクロイド曲線を描きながら、ちょうど落下を始めたジェットコースターに激突し、華麗に 360° ループを 7 回転半キメた。